数々のモンスターたちの中心に、シオはいた。
月明かりの下、白い髪をなびかせ、金色の瞳を光らせながら。
黒川の動きは止まっていた。
俺の位置からでは後ろ姿でよく分からないが、シオを見ているのだろう。
そしてそのシオも、黒川を見ている。
微笑みながら、冷たい瞳で。
どのくらいの沈黙が流れたか。
最初にその沈黙を破ったのは、俺に日本刀を向けた男だった。
「俺は百体だったらやれる、もしものときはサポートを頼む」
その目は鋭くシオを捕らえたまま、離すことはなかった。
「オッケー、俺は近づいてくる奴を片っ端から張り付ける」
カルエは日本刀の男の言葉に答える。
こいつら、シオと戦う気なのか?
そんなことさせるか……!
「俺がいることを忘れるな……」
力強く言いたかった俺の声は、喉の奥から絞り出したような声にしかならなかった。
カルエはヒュウと口笛を吹くと、肩をすくめた。
日本刀の男はまだ俺の喉元から刀を外さない。
「やっぱりこいつ殺した方がいいんじゃないか?」
カルエが放ったその言葉に、俺の心がひんやりとする。
そして、周りのモンスターが反応した。
まるで戦う覚悟をした動物のように、殺気が周りを支配する。
よく見ると、赤や青や色んな色をしていたモンスターの瞳は、すべて金色に光っていた。
シオと同じ、金色の瞳に。
「これ以上トクに何かしたら、許さないよ?」
沈黙を続けていたシオが言葉を発した。
背後では威嚇するようにソラが翼を広げている。
「どうしても、ここにいるって言うのかよ、シオ」
そう言った黒川の背中は静かであった。
肩を落とし、悲しそうにも見えてとれる。
黒川のセリフに、シオは頷く。
「ここだけじゃない、彼らが来た世界に行くつもりだ」
この言葉に、俺は衝撃を受けた。
シオが、この世界からいなくなる。
衝撃を受けたのは、黒川もだったようだ。
「んな……そんな所に行かなくてもいい!俺が!俺がいるだろう!」
そんなことを叫ぶ黒川は、巨大な風体とは逆にダダをこねる小さな少年のようだった。
「決めたんだ、もう戻れない」
黒川は首をうなだれて、何も言わなくなってしまった。
再び少しの沈黙が流れたが、その沈黙はそんなに長く続かなかった。
「……帰るぞ」
黒川は、後ろを振り返ることなく相棒の三人に告げる。
そうして、シオに向かって、いや、シオの後ろにある裏門に向かって歩き始めた。
黒川はシオを通り過ぎるときも、決してシオと目を合わせようとしなかった。
シオも、ただ静かに前を見たままだった。
黒川と一緒にいた女も黒川の後ろについてシオを通りすぎる、どこか釈然としない表情をシオに残して。
「おいおい、いいのかよ」
そんなことをぶつくさ言いながら、カルエもその後を追う。
「うちのリーダーの気まぐれで助かったな」
日本刀の男も、俺の喉元から刀を外すと、鞘にそれを収めて黒川を追った。
俺は去っていく四人のその後ろ姿を見送ることしかできなかった。
最後まで後ろ姿で表情を見ることができなかった黒川だが、最後の最後、門を出るときに少しだけ俺を振り向いた。
「また来る」
その表情は、憎悪にまみれていた。
俺も何か言いたかったが、その気力まで残されていなかった。
四人がいなくなると同時に、シオは俺の元に駆け寄ってきた。
「トク!大丈夫か!?」
その瞳は、金色からいつもの茶色に変わっていた。
ああ、いつものシオだ。
「はは、大丈夫……」
シオの言葉に条件反射で言ってしまったが、実の所全然大丈夫ではない。
世界が回る、裏庭はこんなに暗かったっけ、まるで井戸の底にでも潜るように、俺の意識は沈んでいった。
シオの俺を呼ぶ声をどこか遠くに感じながら。
俺の意識は閉じて行った。

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