十四話「また来る」

 数々のモンスターたちの中心に、シオはいた。
 月明かりの下、白い髪をなびかせ、金色の瞳を光らせながら。

 黒川の動きは止まっていた。
 俺の位置からでは後ろ姿でよく分からないが、シオを見ているのだろう。
 そしてそのシオも、黒川を見ている。
 微笑みながら、冷たい瞳で。

 どのくらいの沈黙が流れたか。
 最初にその沈黙を破ったのは、俺に日本刀を向けた男だった。

「俺は百体だったらやれる、もしものときはサポートを頼む」

 その目は鋭くシオを捕らえたまま、離すことはなかった。

「オッケー、俺は近づいてくる奴を片っ端から張り付ける」

 カルエは日本刀の男の言葉に答える。

 こいつら、シオと戦う気なのか?
 そんなことさせるか……!

「俺がいることを忘れるな……」

 力強く言いたかった俺の声は、喉の奥から絞り出したような声にしかならなかった。

 カルエはヒュウと口笛を吹くと、肩をすくめた。
 日本刀の男はまだ俺の喉元から刀を外さない。

「やっぱりこいつ殺した方がいいんじゃないか?」

 カルエが放ったその言葉に、俺の心がひんやりとする。
 そして、周りのモンスターが反応した。
 まるで戦う覚悟をした動物のように、殺気が周りを支配する。
 よく見ると、赤や青や色んな色をしていたモンスターの瞳は、すべて金色に光っていた。
 シオと同じ、金色の瞳に。

「これ以上トクに何かしたら、許さないよ?」

 沈黙を続けていたシオが言葉を発した。
 背後では威嚇するようにソラが翼を広げている。

「どうしても、ここにいるって言うのかよ、シオ」

 そう言った黒川の背中は静かであった。
 肩を落とし、悲しそうにも見えてとれる。

 黒川のセリフに、シオは頷く。

「ここだけじゃない、彼らが来た世界に行くつもりだ」

 この言葉に、俺は衝撃を受けた。
 シオが、この世界からいなくなる。

 衝撃を受けたのは、黒川もだったようだ。

「んな……そんな所に行かなくてもいい!俺が!俺がいるだろう!」

 そんなことを叫ぶ黒川は、巨大な風体とは逆にダダをこねる小さな少年のようだった。

「決めたんだ、もう戻れない」

 黒川は首をうなだれて、何も言わなくなってしまった。

 再び少しの沈黙が流れたが、その沈黙はそんなに長く続かなかった。

「……帰るぞ」

 黒川は、後ろを振り返ることなく相棒の三人に告げる。
 そうして、シオに向かって、いや、シオの後ろにある裏門に向かって歩き始めた。

 黒川はシオを通り過ぎるときも、決してシオと目を合わせようとしなかった。

 シオも、ただ静かに前を見たままだった。

 黒川と一緒にいた女も黒川の後ろについてシオを通りすぎる、どこか釈然としない表情をシオに残して。

「おいおい、いいのかよ」

 そんなことをぶつくさ言いながら、カルエもその後を追う。

「うちのリーダーの気まぐれで助かったな」

 日本刀の男も、俺の喉元から刀を外すと、鞘にそれを収めて黒川を追った。

 俺は去っていく四人のその後ろ姿を見送ることしかできなかった。

 最後まで後ろ姿で表情を見ることができなかった黒川だが、最後の最後、門を出るときに少しだけ俺を振り向いた。

「また来る」

 その表情は、憎悪にまみれていた。
 俺も何か言いたかったが、その気力まで残されていなかった。

 四人がいなくなると同時に、シオは俺の元に駆け寄ってきた。

「トク!大丈夫か!?」

 その瞳は、金色からいつもの茶色に変わっていた。
 ああ、いつものシオだ。

「はは、大丈夫……」

 シオの言葉に条件反射で言ってしまったが、実の所全然大丈夫ではない。

 世界が回る、裏庭はこんなに暗かったっけ、まるで井戸の底にでも潜るように、俺の意識は沈んでいった。

 シオの俺を呼ぶ声をどこか遠くに感じながら。

 俺の意識は閉じて行った。

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2026年6月7日