二十二話 「再戦」

 話し合いなどできなかった。
 それはそうだ、モンスターたちはシオに約束されるまでやりたい放題だったんだ。
 人を食べ、町を滅ぼし、恐怖をまき散らしていたんだ。

 でも俺は守らなきゃいけない。
 シオを、シオが守ろうとしているものたちを。

 ざわざわと騒ぎ始める数十人の人間たちの議題は、俺をどうするかだった。
 殺すか?捕まえるか?そんな言葉を聞きながら、俺も考えた。
 この人たちをどうするか。
 戦うのか?殺すことになるのか?
 俺にそんなことができるのか?

「何をしている?」

 そんな騒ぎの中、一つだけ聞き覚えのある声が飛んできた。
 来るだろうとは思いながらも、今一番聞きたくなかった声だった。
 
「黒川様!」
「黒川様が来たぞ!これで安心だ」

 それを見た人々の声と表情は、不安から安心に変わっていった。

 人々の身長より、校門よりもずっと高い位置に見えるそいつの巨体は優に二メートルを越えていた。
 前会った時よりもでかくなっているような気がする。
 黒川は俺に気が付くと、眉をひそめて俺から目をそらさず、人々の一番前まで来た。

「よう、トクちゃんじゃないか」
「トクちゃん、お迎えありがとー」

 俺の前に立った黒川の後ろから、カルエと一昨日の夜に黒川と一緒に来ていた女ひょいと現れ手を振った。
 日本刀の男はいない。

 誰がトクちゃんだ。

 黒川とその後ろの二人を睨みつけながら一歩後ろに下がる。
 逃げてるのではない、いきなり掴まれたりしないようにするための間合いだ。

 黒川は、ニヤリと笑った。

「青野徳也、テメエには用はねえ、シオはどこだ」
「シオはいない、どこかに行っている」
「嘘つくんじゃねえよ」
「嘘じゃない、今ここにはモンスターたちと俺しかいない」

 舌打ちした黒川は、頭を掻いて学校の様子を見た。
 よく見たら、その巨大な左手には不釣り合いな小さなヒマワリを持っている。
 待てよ、どういうわけだ?一昨日の夜見た時は黒川の片方の手は普通の手だったのに、今日はどちらの手も巨大化している。
 その疑問の続きを考えることはできなかった。

「じゃあ二番目の用だ、青野徳也、てめえをぶちのめす」

 黒川は握られたヒマワリを女に押し付けると、両手の関節をボキボキ言わせながら俺に向かって歩き始めたのだ。
 俺は後ろに下がる。
 接近戦になったら終わりだ、なるべく離れた所にいる方がいい。

 と、黒川の足が止まった。

「……ん?なんだこれは」

 いつの間にか、木の根のようなものが黒川の右足に巻き付いていた。
 この力は知っている。
 昨日嫌と言うほど味わった、ミドリの力だ。
 近くにいるのか?

 俺はミドリのくれたそのチャンスに食らいついた。

 モップを左手に移し右手を前に出す、そしてその手を握ると、上に向けて振り上げて叫んだ。

「飛べ!!!」

「うおおおおおお!」

 黒川が叫ぶ。
 黒川の巨体は、天に向かって勢いよく飛んでいく。

 やっぱり、一昨日の夜よりも俺の魔法はずっと強くなってる。
 どういう理由かは分からないけれど、これは好都合だ。

「おっと、俺もいることを忘れるなよ」

 カルエのそんな言葉と共に、四方八方から手が伸びてくる気配がした。

 しかし、手は一向に俺にたどり着かない。

 ふと見ると、カルエは木の根に押さえつけられていた。
 伸びていた手たちも、俺に届かないまま固まっていた。

 どこにいるのか分からないけれど、ありがとうミドリ!

 俺は屋上よりも高い位置に黒川が行ったのを見ると、まだ根が黒川の右足に巻き付いているのを確認して叫ぶ。

「ミドリ!頼む!」

 その声に呼応するかのように、根が地面に引っ込んでいく。
 結果、黒川は地面に向けてどんどん加速していった。

 最後には、大きな地響きを立てて黒川は地面に衝突した。

「守!!」
「黒川様!!!」

 黒川が連れて来た女、それに校門にいた町の人々が心配そうな声を口々に上げる。

 動かないでくれ黒川。
 これ以上の攻撃を俺は知らない。
 もう、動くな!

 だがその祈りは届かなかった。

 土煙の中現れたのは、片膝をついた黒川の姿だった。
 その体はかすり傷さえ負っていない。
 校門にいた人々から歓声が上がる。

 やっぱり黒川様は最強だ。

 そんな言葉が聞こえてきた。

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2026年8月8日