二十三話 「力」

 校門の外側には町の人々、内側には黒川と、その後ろに女とミドリの力によって地面に張り付けられたカルエがいた。

「やってくれたな」

 傷一つ無いように見える黒川は土煙が舞う中、顔を引きつらせながら俺を睨みつけていた。
 一歩、また一歩とこちらに向けて足を進める。
 前に進むごとに黒川の足にはミドリの根が足に絡まるが、それさえも足を進めるごとに引きちぎりながらゆっくりとこちらに近づいてくる。

 黒川が一歩近づくごとに、俺も一歩後ろに下がる。

 来るな!

 俺は手を前に突き出すと、黒川に向かい全力で力を使う。

 飛べ!

 しかし、黒川は校舎の壁に腕を突き刺して足を踏ん張りながら俺の力にあらがった。
 俺の力によって、黒川の周りの石だけが空中に浮き上がる。
 それでも黒川は浮かない、壁を壊しながら一歩一歩、確実に俺に向かって歩いてくる。

 このまま力を使い続けるか?
 だめだ、黒川はそれでも俺に近づいてくるだろう。
 空へと逃げるか?
 だめだ、黒川は異常な跳躍力で追ってくるだろう。

 どうすればいい、八方ふさがりだ。

 一歩、黒川が俺に近づく、一歩俺は後ろに下がる。

 事態はそれだけではなかった。
 ミドリの力が尽きたのか、カルエが隙をついたのか、止まっていたはずのカルエの腕たちの一本が俺に届いた。
 黒川にしか集中してなかった俺はふいの攻撃から逃げることができず、その手に首を掴まれそのまま校舎の壁に押し付けられた。
 校門から人々の歓声が聞こえる。

 苦しい。
 
 首にかけられた手の力は手加減されているのか強くないとはいえ苦しい。
 しかし、黒川にかけた力を解くことはしなかった。
 それでも、壁に押し付けられた俺はもう後ろに下がることができなかった。
 殺されるのか?
 俺は?

 そんな俺の心を読んでか、黒川は言う。

「殺さねえよ、青野徳也、てめえはあいつらが探している力を持っているらしいからな、つまらねえけどこのまま連れて行く」

 連れて行く?
 どこにだ?

「どうせ……、ろくでもない所なんだろう……、行くかよそんな所」

 黒川を睨みつける、俺のすぐ側まで来ていた黒川も、面白そうに俺を睨みつける。

「ハッ!言ってろ、あそこに行けば、そのうちそんなことも言えなくなる」

 面白そうに笑う黒川のその目には、少しの同情が姿を見せていた。

 黒川へと手を伸ばす。
 空に浮かべるのを諦めた。
 そのかわり。

 力を横に移動した。

 校舎の壁とは反対側に、黒川は飛ぶ。
 黒川によって穴が開けられていた校舎の壁は壊れ、破片が黒川を追う。

 真横に飛んで行った黒川の体は、モンスターのいる校庭の真ん中に落ちる。

「くそ!てめえ!」

 黒川は、すぐに起き上がり、周りのモンスターを見るや戦闘態勢を取った。

 モンスターたちは、黒川のことをじっと見ていた。
 様々な色の瞳が黒川を捕らえている。
 その瞳が何を考えているかまでは分からない。

「なんだよ、てめえら、かかってくるならかかって来いよ!俺は数々のモンスターを殺してきた黒川様だ!」

 しかし、モンスターたちは何もしない。
 じっと黒川を見つめ続けるだけだった。

「なんだてめえら、ふざけてるのか?かかってこいよ!!」

 黒川は体を回しながら、モンスターたちに叫ぶ。
 しかし、モンスターたちはやはり何もしない。
 ただじっと、黒川を見ていた。

 そんな中、あの黒川が、少しだけ戸惑いの表情を見せた。

 そのうちに、俺はカルエに目をやる。
 カルエはミドリの根によって縛り付けられていたが、首だけをこっちに向けていた。

 どうする?
 こいつを。

 迷っていたら、今まで隠れていたのかポチ太郎がトコトコと茂みから出てきて、カルエの側に立った。

「うわあ!人面犬だ!」
「本当だ、人面犬じゃないか……」

 校門で見守っていたおじさんたちが、ポチ太郎を見て口々に感想を言う。

 カルエの頭にきたポチ太郎は、べろんと舌を出すと、ペロペロとカルエの顔を舐め始めた。

「ぎゃあああ!気持ち悪い!やめろ!やめろこのオッサン顔の子犬!」

 しかしカルエは地面に縫い留められている、ポチ太郎の顔を剥がすこともできない。
 ポチ太郎のその攻撃で、俺の首を絞めていた手が一つ、地面に引っ込んでいった。

「……ミドリ!もういい!」

 そう言うと、ミドリの根がカルエと黒川から離れた。
 その瞬間、俺はカルエとまだモンスターの中心で戸惑っている黒川を確認して、力を使った。

「うわあああ!」
「……クソ」

 浮かび上がった二人は、何もできずに校舎のその上より空に宙づりになっていた。

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2026年8月16日