シオの白い髪が揺れる。
風が吹いていると分かった。
一時間、俺はその様子をただひたすら見守っていた。
一時間前、シオは屋上のフェンスに手をかけると、愛おしいものを見るかのように町を見渡し、目をつぶった。
そのまま今に至る。
シオは今町中のモンスターに言葉を届けている。
七日後、黒い月に向かい元の世界を目指す、集合場所は今自分がいる場所だ、と。
ドラゴンのソラはシオから目を離さず、じっとしている。
まるでシオを守る守護神のようだ。
ミドリは最初の三十分まで一緒にシオを見ていたが、だんだんと形が崩れていき、今では床にペタンと広がって体を覆う草を風にそよがせていた。
まるで眠っているようだ。
いや、本当に眠っているのかもしれない。
俺はというと、ただただシオを見守ることしかできなかった。
モンスターが襲って来ないか、時々周りを見渡すけれども、不思議なほど周りは静かだった。
風がそよぐ音だけが、辺りを支配していた。
校庭の時計に目をやると、時間の針は一時間三十五分を示していた。
シオが言葉を友達に飛ばすのを始めて、一時間と五分がたった。
俺は息を飲んだ。
シオの力の副作用は大丈夫だろうか。
シオを蝕んではいないか?
簡単に言ってみたのはいいが、もし拒絶されたら。
拒絶されなくとも、もし計画が上手くいかなかったら。
失敗したら。
俺の心を叱咤するように、シオの声はいきなり俺の心に響いた。
「よし!」
その掛け声と同時に、世界が動き出したかのようだった。
遠くでモンスターの咆哮があちらこちらで聞こえ始めた。
どうだった?
大丈夫か?
成功したか?
何も言えなかった俺は多分情けない顔をしていたのだろう。
シオは揺れる髪を手でとくと無邪気に笑い、こう言ったんだ。
「お腹すいたな!」
白い髪が、優雅に風に揺れた。
というわけで。
俺たちは近くのコンビニに向かうことになった。
コンビニはもちろんのように機能していないが、食べ物はまだあるらしい。
シオはそこからよくパンだのお菓子だのを拝借しては屋上で食べていたみたいだ。
シオはごきげんに屋上の扉をくぐり、俺たちを呼ぶと軽快に階段を降り始める。
ミドリはシオの言葉に飛び起きると、勢いよくシオの元に行き一緒に歩き始めた。
ソラはそもそも巨体だから屋内に入ることができず、俺たちの様子を外から見ていた。
今でも、窓の外から黄色い巨体からの視線を感じる、まるで俺を警戒しているようだ。
まあ、放っておこう。
だんだんとソラの態度には慣れてきた。
それよりシオだ。
俺は、ミドリを連れて俺の前を行くシオの後ろ姿に問いかける。
「シオ、大丈夫か?」
「んー?」
「体の方はどうだ?もしかしたら、無理をさせたんじゃないか?」
シオは声を出して笑うと、俺を少しだけ振り返った。
「それはもう大丈夫」
シオの笑い声は、少しだけ俺を安心させた。
俺は質問を続ける。
「計画は大丈夫か?ちゃんと友達に伝えることはできたか?」
その問いには、シオは振り返らなかった。
「んー……」
少し不安そうな声に、俺も不安になる。
「それは今から確認に行こうと思う」
シオのその言葉に俺は疑問を持ったが、大人しくシオについていくことにした。
シオにはシオの考えがあるんだろう。
そうこうしているうちに、一階についた。
そこから見える光景だけでも、俺は驚愕した。
獣のような、鳥のような、虫のような、植物のような、地球の生き物のそれとは違う生き物たちが、学校の校庭に屋根にプールに広がっていたんだ。
シオの友達は百匹いると聞いたけれど、それどころではなかった。
一匹一匹数える余裕なんてなかったが、俺の目からしたら、数百匹はいるような気がする。
俺は最初は身構えたが、シオはそうではなかった。
「大丈夫だから」
シオは手で俺を制すと、校庭へと歩く。
そして、君臨したんだ。
君臨としか言いようがない、モンスターたちが頭を下げ、シオを迎え入れたのだ。
まるで王の帰還を迎える民のように。
そして、シオは朝礼代の上に立つ。
ソラがその後ろにゆっくりと降り立った。
俺はというと、その隣、朝礼台の下で、茫然とその光景をただ見るしかできなかった。
シオは空気を吸い込むと、心にまで届く、そんな声を発した。
「みんな、帰ろう!!空へ!元の世界に!!」
歓声が響いた。
モンスターたちが、一斉に吠えたのだ。
シオは恥ずかしそうに笑うと、俺を見て言ったんだ。
「まるで、王様になったみたいだな」
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