四話「シオの友達たち」

 全身を、それこそ頭の上から足の先まで緑の植物で覆われた子供の大きさのような生き物。
 闖入者の正体はそれだった。
 開きっぱなしだった扉から静かにやってきたそれを見て、俺は塔屋の上で息を飲んだ。
 
 モンスター。
 
 こんなとこにも来るのか?
 
 緑に覆われたモンスターは、誰かを探すように辺りを眺めると、小さく首を傾げた。
 俺たちを探しているのか?
 俺は思わずシオをかばうように前に出たが、シオはそんな俺の腕に触れると、俺の顔をじっと見た。

『大丈夫』

 その声は、確かにシオのものだった。
 しかし、シオは口を閉じたままだったのだ。
 唖然とする俺にシオは微笑みかけると、俺の横を通り過ぎ、ふわりと塔屋から飛び降りた。

「シオ!!」

 俺も慌てて塔屋を飛び降りたが、うまく着地できずに転がってしまった。
 それでも必死に起き上がりシオの方を見る。
 助けなければ、シオが傷つくのは絶対に嫌だ。
 しかし、視界に広がる光景はそのようなものではなかった。
 
 緑に覆われたモンスターはシオを見て喜んだようにピョンピョンと跳ねていたのだ。
 まるで迷子が親を見つけて喜んでいるような、そんな風に。
 
「シオ……?」

 シオは俺を振り返ると、人差し指を立てて確かにそう言った。

『大丈夫、見てて』
 
 確かにその口は閉じていたのに、俺はその声を聞いていたのだ。
 もしかして、これもシオの魔法なのか?

 シオは緑のモンスターに近づくと、目線を合わせるようにしゃがみ込み、ふわりとそのモンスターに触れた。
 緑のモンスターは、緑に覆われていたため表情まで分からなかったが、頭から飛び出した蕾が花へと変わったのが分かった。
 喜んでいるのか?
 俺はいつシオが襲われても助けられるように身構えながら、2人に近づいた。

 俺の姿を見つけると、緑のモンスターはびっくりしたように地面に伏せて、そのまま土の地面として擬態したかのようにじっと動かなくなってしまった。
 しかしここは植物ひとつない屋上、地面に擬態したであろう緑のそれはかえって目立ってしまっている。
 
 ……どうやら、そんなに害のあるモンスターでもないようだ。
 
「トク、ミドリが怖がってる」

 シオに怒られてしまった。

 俺は肩をすくめて、両手を上げるとシオと緑のモンスターから一歩後ろに下がった。
 
「ミドリ、大丈夫だよ、これはトク、私の友達だ」

 ミドリと呼ばれたモンスターは、恐る恐る顔らしき部分を上げると、少し少し元の形状に戻っていく。
 よく見ると、頭に咲いた花はまた蕾に戻っていた。
 そして、次にシオが告げた言葉に俺は驚愕した。
 
「トク、この子はミドリ、私の友達の一人だ」

「……正気か?」

 俺はそれしか言うことができなかった。
 相手はこの地を征服したモンスターだ、人を食うモンスターだ。
 シオの言うことは信じたい、しかしモンスターだけは信じられなかった。
 
「騙されてないか?シオ」

 シオは満面の笑みで俺を見る。
 
「私の力を忘れたのか?トク」
 
「心を……、読める力……」
 
 シオが嘘をついているとは思えない。

 じゃあ、本当にミドリと呼ばれたモンスターはシオの友達なのか?
 本当に無害なのか?
 俺はおそるおそるミドリの葉っぱの一枚に手を伸ばす。
 しかし、ミドリは俺の手から逃れるようにナナメになってしまった。
 
 俺は深呼吸をすると、念じた。
 
 ミドリは怖くない、人を食うモンスターじゃない、おとなしい無害なモンスターだ。
 
 そして俺はもう一回ミドリに手を伸ばす。
 しかしミドリはまた俺の手を嫌がるようにナナメになってしまった。
 
「俺のことは苦手みたいだ」
 
 シオが声を立てて笑った。
 
「この子は人見知りが激しいんだ」

 シオの笑い声で、すべてどうでもいいような気がしてきた。
 シオがモンスターと仲良くなったこと、シオの魔法、俺の魔法。
 どうでもいいことのような気がしてきたんだ。
 ミドリも同じらしく、シオの笑い声に合わせるように左右に揺れていた。
 
「トク、友達はミドリだけじゃないんだ、沢山いる」

 その言葉に、俺はため息をついた。

「はいはい、シオやることだ、俺はもう驚かないよ、他にどんな変わった友達がいるんだ?」

 その時、大きな風が起こった。
 そして気が付くと、俺のいる場所は影になっていた。
 本日は雲一つない快晴、影になるものなんてないはずである。
 俺は思わず手をかざすと、空を見上げた。
 
 そこにいたのは、巨大なトカゲのような胴体とこれまた大きな翼を持った竜。
 大きな風と共に、この屋上の半分を埋める巨体が降り立った。
 
 びっくりして声さえ上げられない俺をよそに、シオは竜に近づいていく。
 そして竜の顔に手を伸ばすと、自分もその顔に額を寄せ何かささやき、俺に向き直った。

「紹介しよう、私の友達、ドラゴンのソラだ」
 
 ドラゴンは、値踏みするように俺を見ると、フンと鼻を鳴らした。
 その吐息だけで、俺の前髪が揺れた。
 俺はもう、驚きを通り越して諦めのような笑いが出るだけだった。

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2026年2月15日