今朝家で見た竜と同じだろうか、黄色いドラゴンのソラは俺を一瞥すると再び鼻を鳴らし懐くようにシオに顔を摺り寄せた。
そんなソラの思いに答えるように、シオもソラの頭を撫でながら顔を寄せる。
俺はしばらくそんな愛情深い光景を見せつけられていたが、ふとした瞬間ソラと目が合った。
その目は勝ち誇ったように笑っていた、ような気がした。
なんだこいつ?
俺は少しムッとしてソラを睨みつける。
しかしそれはアリが象を睨みつけるような距離感を感じてしまうだけだった。
「ソラ、このヒョロっとしたのが私の友達のトクだ」
シオは俺たちのそんな様子を知ってか知らずか、俺の紹介を始めた。
ソラはシオから顔を離すと、背を伸ばし俺を見下す。
俺とすぐ隣にいたミドリは、簡単にその影に隠れてしまった。
でかい。
本当にでかい、そして妙な威圧感がある。
俺は負けじと背を伸ばすとソラを見上げて睨みつけた。
ソラはそんな俺を見て余裕の表情で俺を見下ろしていた。
なんだか負けているような気がする……。
俺はため息をつくと、シオに向き直った。
「シオ、どうしてこんな色んな友達ができたんだ?心を読める魔法だけじゃなくて、モンスターと心を通じ合わせる魔法も習得しちゃったのか?」
シオは嬉しそうに拍手した。
「トクよく分かったな、どうやらその通りらしい、私の魔法は心を読めるだけでなく、言葉や心を相手に伝えることもできるらしいのだ」
シオの嬉しそうな拍手は続く。
「三十日前くらいだったか、いきなり心や言葉が聞こえるようになったんだ、最初は色んな者たちの心が入ってきて大変だったが、今では心を聞くも飛ばすも距離がコントロールできるようになった」
大変だった。
その言葉に俺は心臓がしぼんだ思いがした。
こんな巨大な魔法を得るには対価がいるのが当たり前に違いない。
俺も……。
いや、今はシオだ。
俺はシオの白い髪を見る。
風に流れるその髪は光り輝くようで美しかったが、タダで手に入れたものではないのだろう。
「髪の色もその時変わったのか?」
俺がそう言うと、笑顔だったシオに少しの影ができた。
「まあ……そうだな、あれはかなり大変だった、あの日もここにいたのだが、丸一日心の声に耐えて朝になったら髪が白くなっていたんだ」
シオは軽く言うが、髪が全部白くなるほどだ、相当大変だったのだろう。
そんなときに俺は何もせずに家で飯を食べていたのだろう。
なぜ俺はもっと早くにここに来ることができなかったんだ。
「ごめん……」
「トクが謝ることはない。それに、そこにいるミドリが助けてくれたんだ」
「ミドリが……?」
隣にいるミドリに目を向けると、ミドリはソラの影の中全身を覆う草を揺らしながら風にそよいでいた。
シオの話は続く。
「その日の朝目を覚ますと、覗き込んでいたんだ心配そうに、大丈夫?と言いながら。そしてミドリは連れて行ってくれたんだ、この子の親の元に、私はミドリの親に力の使い方を教えてもらったんだ」
「ミドリの親……」
それは、後でお礼を言いに行かなければいけないかもしれない。
でもとりあえずはミドリだ。
「シオを助けてくれてありがとうな、ミドリ」
俺がそう言うと、ミドリは少し顔を上げたが、そんなことどうでもいいんだよと言うように顔を元の位置に戻すとまた風にそよぎ続けた。
「ミドリの親は大きな山のような方で、私はヤマと呼んでいる、モンスターには名前というものがないみたいだったからな」
それは、本当に山のようなモンスターだったんだろうな。
ミドリを見るとそう思う。
「ソラもヤマの紹介で仲良くなったんだ、背に乗せてもらって空も飛んだんだ」
そう話すシオの表情は、無邪気な笑顔だった。
シオはいつも空を見ていた。
きっと空にあこがれていたのだろう。
シオを空に連れて行く最初の役目は、俺がしたかったが、家で飯を食べていただけの俺にそんな資格はなかったのだろう。
俺は頭上にあるソラの顔を見上げた。
ありがとう。
声には出さなかったが、確かにそう思った。
ソラは俺をじっと見ていたが、顔を横にそらすと「ハー!」とため息をついた。
なんだかいちいち癪に障る奴だなこいつ。
「それから今まで、ソラとミドリと一緒に色んなモンスターと友達になり続けていたんだ」
シオは俺を見ていたが、その目は遠くを見ていた。
「もう、百は友達になれたかな」
「百匹……」
想像より多い数字に俺は苦笑した。
シオは人間の友達を作るのは苦手だったのに、モンスターとはすぐに仲良くなれるんだな。
シオらしい。
「百のモンスターと友達になって、私は決意したことがあるんだ」
少し真剣になったシオの声に、俺も緊張感を感じた。
シオを見ると、その瞳は遠いところから俺に戻っていた。
そして、シオはためらうことなく言ったんだ。
「私は、この地に来たモンスターすべてを、元の世界に戻そうと思う」
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