六話「七日後の約束」

―私は、この地に来たモンスターすべてを、元の世界に戻そうと思う―

 そう、シオは確かに言った。
 それはきっと今のこの世界にとっては希望であるのだろう。
 でも……。
 
「でも、どうやって……」
 
 俺の戸惑いに、シオは安心しろとでも言う表情で微笑む。

「ソラが言うには、空に浮かぶあの黒い穴がソラたちの住む世界の入り口になっているらしい、ソラと一緒に、ここにいるモンスターを全部あの黒い穴の向こうまで連れて行く」

 自信満々に言うシオだったが、俺の胸に宿った思いは一つ、無理だ、だった。

「連れて行くって、一匹一匹ずつなのか?この地に来たモンスターの数も分からないんだぞ、今でも黒い月はモンスターを吐き続けている、一体どうやって……」

「それでも、やる」

 まっすぐに俺を見つめるシオのキラキラとした瞳は、強い光をたたえていた。
 俺は思わずシオに背を向けると、片手で顔を覆い空を仰いだ。
 
 無理だ。
 
 と思うが、俺はシオに弱い。
 できればシオの願いをかなえてやりたい。
 
 しばらく黒い視界の中をさまよっていた俺だったが、腹をくくった。
 
 仕方がない、シオの一世一代の大勝負だ。
 
 俺は顔を覆っていた手を外す。
 そこには青い空と、黒い月が見えるばかりだった。
 
「シオ、作戦はあるのか?」

 背後にいるシオに問いかける。
 それに対するシオの答えは無邪気なものだった。
 
「ない、少し少しソラと一緒に連れて行く気だった」

 俺はまた顔を覆いたくなる気分になった。

「この地にいるモンスターの数は分かるか?」

「ヤマが言うには、三千二十四らしい」

「確かな情報なのか?」

「ヤマには不思議な力があって、モンスターがこの世界に何匹いるか正確に分かるらしい」

 俺は前を歩いて屋上のフェンスまでたどり着くと、ため息をついてしゃがみこんでしまった。
 
 できるわけがない。
 
 でもやるしかない。
 
 きっとそれが俺たちが住むこの世界を救うすべにもなるのだろう。
 
 振り返ると、シオは変わらない瞳で俺を見ていた。
 ソラは姿勢を正したまま、俺がどう動くか観察しているようだった。
 ミドリは風にそよいでいた。
 
 立ち上がり、もう一度ため息をつく。
 先ほどのため息は絶望だったが、今度は諦めである。
 
「分かった、シオがそうするなら、俺も協力する、いや、協力させてくれ」

 そう言ったら、シオは満面の笑みをした。
 俺もつられて笑ってしまう。
 
 ああ、俺は本当にシオに弱いんだよ。
 
「じゃあ、作戦会議だ」

 俺は両手を握りしめて、気合を入れた。
 フェンスから離れると、またシオたちの元に戻る。
 
「考えていた方法より、良い作戦があるのか?」

 シオの問いに、俺は少し考えて言った。
 
「少し少し連れて行くのは時間がかかるし、体力もいる、ここは日を決めて、みんな一気に連れて行こう」

「ミドリのように空を飛べない者もいるぞ」

「それは飛べる奴が連れて行くことにしよう」

 それでもどうしようもなかったら、俺の魔法を使えば終わる。
 だが、それを使えば俺がどうなるか分からない。
 
 少しシオが不安な表情をしたが、気付かないふりをした。
 
「シオ、友達になったモンスターたちに伝えることができるか?一週間……七日後に黒い月に向かい、元の世界を目指すこと、そしてできれば仲間にそのことを広めてもらうこと、集合場所はそうだな……ここだ、学校にしよう」

「百匹全員の受け答えまでできないけれど、一方的に伝えることはできるぞ」

 よし。
 
「よし、まずソラとミドリに伝えてくれるか?今俺が言ったことを」

「分かった」

 シオはソラとミドリに向き合うと、決意に満ちた瞳で言った。
 
「今から七日後、黒い月を目指して空に行く、集合場所はここだ」

 ソラは低く唸り、ミドリはぴょんと一回跳ねた。
 シオは今度はオレに目を向けると言う。
 
「ソラもミドリも了解だそうだ、でも、どちらも私のボディガードをするために約束の日まで一緒にいるらしい」

「シオには、俺がついてるんだが……」

 そう言うと、ソラはバカにするように一回「ハッ!」息をつき、ミドリは首を傾げた。
 
 くそ、全然信用されてない。
 
「トク、どうする?もうみんなに伝えるか?」

 俺は驚いて声の主を見る、視線の先のシオはいつもの笑顔だった。
 
「できるのか?できればなるべく早くに友達たちに伝えて欲しいんだ」

 任せてくれ、シオはそんな自信満々の表情で頷いた。

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2026年3月1日