コンビニまでの距離は学校から歩いて十分、そんなに遠い距離でもなかった。
でも、その短い時間の間でもモンスターとすれ違うのは一匹二匹ではなかった。
ライオンの頭とゴリラの体を持った大きな人くらいの大きさのモンスター。
ツノを持ったトカゲのようなモンスター。
列をなして歩く中型犬ほどの大きさの虫のようなモンスターたち6匹は、ここに来るまでの間に会ったことがあるな。
みんな学校を目指していた。
シオがモンスターたちに何を伝えたか分からないけれど、帰ろうという言葉は確実に彼らの中に広がっているようだった。
そんな光景の中、シオは機嫌が良かった。
鼻歌を歌いながら、軽い足取りで俺の前を歩いている。
ミドリも心なしかごきげんで、シオの鼻歌に合わせて左右に揺れていた。
ソラは、俺たちよりもずっと上空の空を優雅に泳いでいたが、コンビニが見える距離になるとその駐車場にゆっくりと降りた。
「ソラ、ちょっと待っててくれ」
先に来ていたソラにそう言うと、シオは迷いなくコンビニの中に入っていった。
壊れた自動ドアから中に入ると、コンビニの中は惨憺たる有様だった。
棚は崩れ、食べ物は荒らされ、何かが唐揚げの入った棚を食い漁った形跡まである。
サンドイッチなどの食べ物は荒らされているが、袋の中に入った食べ物は大丈夫のようだ。
荒らしたのは、人でなくてモンスターなのだろう。
店員の影はもちろんない。
先に行くシオとミドリは、レジから袋を大きな袋を取ると、日用品のコーナーに行ってしまった。
俺はカゴを取ると、水や食料を適当に入れて行った。
ミネラルウォーター、ポテトチップス、缶詰、パンは……まだ食べれるのだろうか?
そんなことを考えながら奥まで行きかけると、俺やシオやミドリとは違う他の気配を感じて足が止まった。
何か硬いものをガリガリと食べる咀嚼音がする。
俺は恐る恐るその音の元、コンビニの一番奥を見る。
そこには、破られたペットフードの袋に頭をつっこんで一心不乱にそれを食べるマメシバの体があった。
何だ、犬か。
どこかで飼われていた犬が逃げてしまったのだろうか。
俺はそのマメシバの側まで来ると、屈んでそのマメシバに言った。
「どうしたんだよ、どっから来たんだ?」
その声に反応し、ひょいっと、マメシバが袋から顔を出した。
そして俺は固まった。
猿のような、オッサンのような顔がそこについていたからだ。
耳は……犬のそれなんだが。
顔が、オッサンでしかない。
「なんだよ」
しかもしゃべった。
日本語を。
オッサンの顔のついたマメシバは、固まる俺をジト目で見ると、怪訝そうな顔を向けながらコンビニから出て行ってしまった。
何だったんだ?あれは。
あれも学校に向かっているのか?
「トク、どうした?」
飲み物コーナーの前に立ったシオが、不思議そうに俺を見ていた。
さっきのオッサンマメシバは見てないみたいだ。
「いや……、何でもない……」
多分、何でもないのだろう。
俺は立ち上がると、シオの元に向かった。
それから学校の屋上に戻り、缶詰とカンパンとミネラルウォーターで昼食をとると、シオと色々話した。
今までのこと、シオのこと、自分の事、魔法のこと。
まるで変化の日の前に戻ったみたいだった。
ミドリはシオの側で頭に花を咲かせてた。
ソラはそんな俺たちを見守っていた。
気が付けば夜が来ていた。
なんとなく屋上で空を眺めていたくなり、俺たちはベッドのある保健室ではなく、屋上で寝っ転がって空を見ていた。
空には星が無数に広がり、光が輝いている。
気のせいか、その星は変化の日の前の時より光が強いようだった。
俺たちは何も言わずただそんな空を見ていた。
星の輝きだけが騒がしい、そんな夜だった。
「トク」
俺と同じく寝っ転がって空を見ていたシオがふいに話しかけてきた。
「何だ?シオ」
「トクは、モンスターたちの世界に行けたとすると、そこで暮らしたいか?」
考えたこともなかった。
「俺は……」
しばらくの間、何も言うことができなかった。
沈黙だけが答えだった。
「俺は……」
考えているうちに、シオの呼吸が寝息に変わった。
「シオ?」
返事は寝息だけだった。
寝たのか……。
俺は少しほっとした。
黒い月の向こうの世界に行く、そんな選択まで俺はしなくちゃいけないのか。
あと七日のうちに、それを考えなくてはいけない。
時間はまだまだあるような気がした。
俺は起き上がり、屋上のフェンスに向かうと、そこに広がる光景を見た。
多数の様々なモンスターがそこに広がっていた。
遠吠えをしたり、眠ったり、その様子は様々だった。
俺は息を整えると、集中して、シオに届かないようにその言葉を言った。
「浮け……」
魔法を行使した。
足が、地面を離れる。
数十センチだろうか、確かにその時俺は浮いていた。
五分、十分、十五分。
浮いて十五分を確認した後、俺はたまらず地面に落ちた。
「ハア……ハア……!」
地面に倒れ伏した俺は、息をしっかりと整えた。
息が乱れる、世界が曲がる。
吐き気を催したが、必死で我慢する。
地面に落ちた痛みより、その感覚の方が我慢できなかった。
校庭の時計は九時五十五分をさしていた。
数十センチ浮いただけで、たった二十分一人で浮いただけでこれだ。
魔法の力を強くしなければいけない。
今から六日のうちに。
静かで暗い空の下、俺は地面に手をついて決意した。
いざとなったら、俺が空へ連れて行く。
視線を感じ後ろを見ると、シオの側で体を丸めていたソラだけがそんな俺を見ていた。
目が合うと、ソラは少し目を細め、再び目をつぶった。
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