「あなたは良く出来たAIよ、自分を魔法の国の住人だとインプットされてるの、そう、子供を夢の世界へと誘うために。魔法の国の住人……その実態は、最先端の技術で作られた子供用玩具なのよ!」
言いながら数歩後ろに下がったカガクは、勢いをつけてミラクルくんを指さす。
そのポーズはまるで、お前が犯人だと言わんばかりだった。
「ええっ!」
ミラクルくんはカガクの言葉にかなりの衝撃を受け、つぶらな瞳を大きく見開いた。
「そう……きっとAIが暴走し、発明所から逃げたのね……」
「ええー!!」
ミラクルくんの背後で何かが崩れる音がした、ような気がした。
ミラクルくんは地面に降りると、そのまま頭を抱え、自分と自分を取り巻くすべてのものに疑問を抱き始めた。
「そんな!僕は魔法の国ミラクルランドの住民で!恋人はハートちゃんで!そんな……それが全部うそっぱちなんて!僕は……僕は……どうすれば……」
哀れなミラクルくんを見下ろしながら、カガクはトドメの言葉を告げる。
「帰りなさい……自分の居るべき場所へ……小さな女の子の家へ行くのよ!」
そしてカガクは振り返らず歩き出す。
背後では地面でミラクルくんが頭を抱えている。
「そんな……!僕は……僕はAIだった……!なんてこった!世界に騙された!自分に騙された!畜生!世界なんて!世界なんて大っ嫌いだあ!」
小さな手は虚しく地面を叩きつける。
一人残ったミラクルくんは、いつまでもそこでそうしていた。
END。
「じゃないです!何言ってるですか!あやうく自分の存在を全否定する所だったですよ!カガクさまなんて恐ろしいことを言うですか!しかもちゃっかり他の女の子に事態を押し付けようとしませんでしたかちゃっかりと!」
歩き去ろうとするカガクに全速力で追い付くと、再びカガクの前でぷんぷん怒り始めた。
カガクはカガクで、
「チッ!」
ミラクルくんから目をそらし舌打ちをする。
「女王さまがそんな表情しちゃダメです!いいですか、カガクさま、僕は難しいことは何も言ってないです、観念して魔法の呪文を唱えるです」
「それだけは嫌」
目をそらしたまま、カガクは短く呟いた。
「わがままっ子ですか!そんなことしてるうちも魔法の国は魔法の木が枯れ魔法の光もなくなるです!魔法の光が失くなったら、魔王が復活したときあっという間に僕ら魔王の手先にされちゃうですよ!」
新しい登場人物の登場に、カガクは鼻で笑う。
「ハッ、魔王?なにそれ?そんなものまでいるの?魔法の国は」
ミラクルくんは、真剣にカガクを見ると、精一杯の怖い顔をして言う。
「魔王は千年前に魔界からやってきた恐ろしい力を持つ恐ろしい人物です!魔王は僕らの世界を征服して、僕らを使って人間にひどいことをしようとしたです!千年前、女王クランシオーネさまは、魔王を封印するために命を使い果たしたのです!恐ろしいのです!」
やたら恐ろしい恐ろしい言うミラクルくんは、実際恐ろしいのだろう、顔を青くしてブルブル震えている。
「ちなみに僕もそのときのこと覚えてるです!大好きな人間に怖いことしそうになってヤバかったです」
「あんたそのなりで千歳なの?」
「何だかちょっと聞いてほしいことと違うですがそうです」
「キツくない?その口調」
カガクの台詞にミラクルくんは心底嫌そうな顔をした。
「それは聞かないでくださいよ女王さま」
でも人間が被害に合うなら面倒くさくても恥ずかしくてもやらなければいけないかもしれない。
それに魔法の呪文とやらを唱えなければこいつは離れてくれなさそうだ、ならばとっとと嫌なことは済ませるべきじゃないだろうか。
世の中日々修行、修行、カガクはそう思い込みながら、非常に嫌そうな表情をしながら手をミラクルくんに差し出した。
「ホラ」
ミラクルくんはカガクの態度の変化に呆然と手を見ていた。
「ステッキよ、私が魔法の呪文とやらを唱えたら、あんたとっとと帰るのよ」
ミラクルくんの表情が光に満ちた、ステッキを出すと、涙まで浮かべた表情でカガクの手にそれを渡した。
「さあ!唱えて女王クランシオーネ!いや!カガクさま!」
カガクは魔法のステッキを受け取り無造作に振り回すと、実にやる気の無さそうな声で早口に呟いた。
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